債務整理

自己破産したらその後の生活への影響は?

自己破産は、借金を返しきれないほど抱えてしまった人への救済措置である債務整理の方法の1つです。

「自己破産」という言葉にネガティブなイメージを持っている方も多いかもしれませんが、その具体的な内容はご存じでしょうか。

この記事では、自己破産したらその後どうなるのかを説明していきます。

自己破産にはメリットもありますが、勿論デメリットもあります。
それを正しく理解した上で、自己破産の手続を取るかどうかご検討下さい。

1.自己破産とは

自己破産とは、裁判所に申立をして、一部の財産(生活必需品、99万円以下の現金、その他一定額以下の資産価値しかない財産など)を除き、保有する財産を全て換価・処分し、これを債権者に配当することで、その余の借金を全て免除して貰う債務整理の方法です。

自己破産により借金がなくなることを「免責」といい、それが裁判所によって認められる事を「免責許可決定」と言います。

免責許可決定が確定すれば、債務者の借金は全てなくなります。

なお、一般の方々は、「破産=借金の免除(免責)」というイメージを持っているかと思いますが、法律的には、「破産」と「免責」は別個の手続であり、破産をしても免責が許可されなければ、配当後に残った債務について、引き続き支払義務を負担することになります。

2.自己破産したらどうなるか

自己破産をすると、破産後の生活には具体的に以下のような効果や影響があります。

(1) 借金がなくなる

自己破産をして、免責が許可されると、借金は原則として全てなくなり、借金に悩む生活から抜け出せます。
消費者金融からの借入やカードローンからの借入、個人間の借入だけでなく、奨学金も、自己破産をしたら(免責が許可されたら)返済の必要はなくなります。

ただし、養育費や夫婦間に生じる婚姻費用については、自己破産したとしても、今までと同様に払い続ける必要がありますし、破産時点までの滞納分についても、支払いは免除はされません。
さらに、税金・社会保険料・刑事罰の罰金等も免除されません。もし、税金等を滞納している場合は、役所に申し出て、分納や猶予して貰う必要があります。

こうした、免責が許可されてもなお支払義務が免除されない類の債権は、「非免責債権」と呼ばれます。

(2) 取り立て・訴訟・強制執行が止まる

自己破産を含め、債務整理を弁護士に依頼すると、弁護士は、まず、各債権者に対して「受任通知」を送付します。

受任通知とは、弁護士が債務整理を請け負った事の証明となり、それが送られると、貸金業者から債務者本人に対する取立は止まります(貸金業法21条1項9号)。
なお、ここでいう「取立」とは、電話や手紙、訪問等の任意の手段による支払いの督促行為のことです。

これに対し、債権者が裁判所に訴訟を提起したり、支払督促の申立をするとか、あるいは、判決等の債務名義を取得した上で、債務者の財産に強制執行をかける等といった法的手続を取ることまでは、破産手続が開始されるまでの期間については、禁止されておりません。

また、本人への取立の禁止義務を負うのは貸金業者に留まります。

破産手続が開始されると、債務者の借金に対する新たな訴訟提起は禁止され(破産法第100条1項)、現在行われている訴訟も中断します(同法第44条1項)。

同様に、現在行なわれている差押などの強制執行は、(管財事件の場合は)破産手続が始まると同時に失効し(破産法第42条2項)、今後の強制手続も禁止されます(同法第42条1項)。

(3) ブラックリストに載る

自己破産などの債務整理手続を行うと、金融事故を起こしたとして、信用情報機関に事故情報が登録されます。
この事故情報の登録が、いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれているものです(実際にブラックリストという名前の顧客リストを作っている訳ではありません)。

クレジットカード会社など、契約の際に申込者の与信審査を行なう会社は、信用情報機関の会員となり、加盟機関に登録された情報を参照して、審査に通すか否かを判断します。

つまり、信用情報機関に事故情報を登録されてしまうと、新しくクレジットカードを作ったり、ローンを組んだりすることは出来なくなると考えて下さい。

もっとも、この事故情報は、一度登録されたら、永久的に保存される訳ではなく、選択する債務整理方法や、複数ある信用情報機関のどれに登録されているかにもよりますが、概ね5~10年程で削除されます。

事故情報が削除された後であれば、新しくクレジットカードを作れますし、ローンも問題なく組めます。
ただし、信用の積み立てが一定期間出来ていないので、いきなり住宅ローンなどの重いローンを組もうとしても、審査に通るのが難しい可能性があります。

(4) 財産は一部を除き処分される

自己破産をすると、一部の財産(前述しましたが、生活必需品や99万円以下の現金、一定額以下の資産価値しかない財産など)を除き、破産手続開始の時点で所有している財産は、「破産財団」として、全て換価・処分して、債権者への配当に充てる必要があります。
これには、持ち家や車の他、預貯金や、加入している保険(解約返戻金があるもの)、退職金なども該当します。

ただし、実務上、一定額以下の資産価値しかない財産(目安としては20万円以下)に該当するようであれば、手元に残すことが認められています。

例えば、売却金額(査定額)が20万円を下回る車や、残高が20万円以下の預貯金、解約返戻金が20万円以下の生命保険などが当てはまります。

ただし、保険に複数加入している場合は、加入する全ての保険の解約返戻金の合計が20万円以下か否かという基準で判断され、合計が20万円を超えるときは、原則、(解約返戻金が存在する)全ての保険が、処分・配当の対象に含まれます。
預貯金についても、複数の口座を持っている場合は、同様の考え方で判断されます。

(5) 今住んでいる家から出ていかなければならない可能性

自己破産をすると、原則として、持ち家は処分しなければいけません。
しかし、賃貸物件に住んでいるのであれば、家賃をしっかり払っている限りは追い出されることはないでしょう。

ただし、もし今現在、家賃の滞納をしている場合は、その滞納家賃も破産手続の対象となり、結果、自己破産によって、家賃の滞納分を全て踏み倒してしまうことになるので、それを理由に追い出されてしまう可能性はあるでしょう。

しかし、住んでいる家に残りたいからといって、自己破産することを決めた後に、滞納分の家賃を払ってしまった場合には、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」=一部の債権者に優先的な(不公平な)返済をしたとして、「免責不許可事由」に該当する恐れがあります。

免責不許可事由に該当してしまうと、最悪、借金の免除が認められない可能性があります。
2~3ヶ月分程度の家賃の滞納であれば、裁判所も問題ないとしてくれる(免責不許可とする程ではないと判断してくれる)こともありますが、法律的にはルール違反であることには違いありませんから、自己判断は危険です。予め弁護士に相談して慎重に進めていく必要があります。

なお、自己破産後すぐに新しく部屋を借りることも出来ますが、信販系の家賃保証会社を使う場合には、ブラックリストが原因で借りられない可能性があります。
もし、自己破産後に新しく借りる場合には、不動産業者にその旨を相談して、信販系でない保証会社がついている物件を紹介して貰うことをオススメします。

(6) 引っ越しや海外旅行は可能

自己破産手続中は、引っ越しや海外旅行、出張で現住所を離れる際には、事前に裁判所に申請をして、許可を貰う必要があります。
これは、手続中の債務者の居場所が分からなくなってしまうのを防ぐためです。

しかし、自己破産の手続が全て完了すれば、それらには何の制限もつきません。

また、パスポートには、自己破産したかなどは、一切書かれません。

(7) 給料や年金への影響

給料

自己破産をしても、破産手続開始決定後の給料は、全て受け取ることが可能です。

すなわち、破産手続が開始する前から、給与の差押えを既に受けていたとしても、管財事件の場合は、破産手続開始が決定した時点で、給与の差押手続は失効し、破産手続開始後最初に支給される給与から、再び満額の給与を毎月受給出来るようになります。

同時廃止の場合は、破産手続の開始・廃止の時点で差押が中止となり、免責許可決定が確定した時点で差押が失効となります(免責不許可の場合は、一旦中止していた差押が再開されます)。

この間の(期間としては数か月分の)給与の差押分については、破産者にも債権者にも支払われずにプールされ、免責の結論に応じて、差押が失効すれば破産者に、差押が再開すれば債権者に、プール分の給与が纏めて引き渡されます。

退職金

まだ受け取っていない退職金がある場合は、退職を強要されることはありませんが、債権者への配当に充てるため、退職金見込額に相応する金額を予納することを要求されます。

しかし、退職金に関しては、労働者とその家族の生活を保護する見地から、その4分の3は、法律上の差押禁止財産=自由財産とされているので、破産手続にあたっても、債権者への配当に充てられるのは、その4分の1だけです。つまり、法律上は、退職金見込額の4分の1を予納すれば良いのです。

ただし、東京地裁等では、さらに保護される範囲を8分の7までに拡張しており、退職金見込額の8分の1だけを予納すれば良い扱いとされています。これは、将来退職した際に、本当に退職金が支給されるかどうかは未確定であるのに、現時点で、その4分の1にも相当する金額を差し出させることは破産者に酷だからです。

もっとも、既に退職しており退職金の支給を待つだけとか、定年が間近であるなど、近く退職金が支給されることが確実な場合は、原則どおり、退職金の4分の1相当を予納する必要があります。

また、既に受領済みの退職金は、単なる現金または預貯金として扱われますので、現金で保持している場合は99万円を超える部分、預貯金としている場合は20万円以上の部分(複数口座がある場合は、全口座の残高の合計で判断)は、配当に回されてしまいます。

年金

まず、年金を受け取る権利自体は「差押禁止財産」に該当するので、自己破産をしたからといって、処分されることはありません。したがって、破産者に年金が支給される前に、債権者が未支給の年金を先に差し押さえることは不可能です。

また、破産したことを理由に、将来年金を受け取れなくなるということもありません。

ただし、既に受取済みの年金に関しては、もはや単なる現金または預貯金ですので、現金で保持している場合は99万円を超える部分、預貯金としている場合は20万円以上の部分は、配当に回されてしまいます。

生活保護の給付金を受け取る権利についても、考え方は年金と同じです。

(8) 周囲にバレることはほとんどない

自己破産をすると、家族にはバレる可能性が高いです。
持ち家があれば引っ越さなくてはいけませんし、車も、ほとんどの場合は処分しなければいけません。

しかし、職場の人など、家族以外の人には、基本的にバレないと考えてよいです。

自己破産をすると、官報という政府が毎日発行している新聞に氏名と住所が載りますが、官報を毎日確認している人はほぼいませんから、それが原因で自己破産したことがバレることは実際にはほとんどありません。

ただし、自己破産をする際には全ての債権者に通知が送られるので、会社が債権者になっていると、自己破産していることが会社にバレます(知人や親戚から借金している場合も同様です)。
要するに、会社から借金をしている場合には、確実にバレると考えて下さい。

他には、自己破産をするのに必要な書類である「退職金見込額証明書」を会社から発行して貰う際にバレる可能性もあります。
しかしこれは、ローンの与信審査に必要、ファイナンシャルプランナーに必要と言われたなどと説明することで、回避出来るかもしれません。

会社に破産のことがバレるもう1つのパターンとしては、破産者が破産手続前から給与の差押を受けているケースがあります。
この場合、前述のとおり、破産手続が開始した時点で、係属中の給与差押手続は解除(失効)あるいは中止となるのですが、この差押の解除・中止の手続を取る関係で、債務者について破産手続が始まった事実が、会社に伝わってしまいます。

(9) 一部の仕事には資格制限がある

まず、自己破産だけを原因にした解雇は、不当解雇になります。労働者は労働契約法によって守られていますので、「破産をしたから会社をクビになる」ということは、法的には、まずないでしょう。

一般的なサラリーマンや公務員、医師や看護師などは、自己破産による制限を受けません。
しかし、一部の職業に関しては、自己破産手続中は、その職に就けない可能性があります。

例えば、士業(弁護士、税理士、司法書士、弁理士等)や、団体(商工会議所など)の役員、警備員、貸金業登録者、質屋、生命保険募集人、旅行業務取扱主任者、市町村の教育委員会の委員長や委員などがその代表例です。

しかし、資格や職業が制限されるとしても、その期間は破産手続中=7破産手続開始決定から免責許可決定確定までの3ヶ月~半年程度に限ったものとなっています。

その間は、部署替えをお願いする・休職するなどの何らかの対策を取る事で、破産後は問題なく元の仕事をすることが出来ます。

なお、一般の会社役員に関しては、破産手続が開始した時点で、一旦、役員を退任する必要がありますが、その後、株主総会で改めて役員に選任されれば、破産手続中であっても、再び役員の地位に就くことが可能です

[参考記事]

自己破産をすると今の仕事はどうなるか|解雇?転職?

(10) 保証人へ影響が及ぶ

自己破産により借金を無くして貰う(免責の許可を得る)ことで、債務者本人への請求はなくなります。

その代わりに、保証人付きの契約の場合は、債権者から保証人に対して請求がいきます。自己破産をしても、債権者から保証人への請求権は無くなりません。

あまりにも借金額が大きい場合には、保証人自体も、自己破産その他の債務整理を行なうことを検討した方が良いかもしれません。

いずれにしても、自己破産などの債務整理をする際には、事前に保証人と話し合ってから着手するのが良いでしょう。

(11) 家族への影響はほとんどない

例えば、持ち家に住んでいた場合は、自己破産により処分されてしまうので、家を引っ越さなくてはいけません。
また、家族が保証人になっている場合は、保証人も揃って自己破産しなければいけないかもしれません。

しかし、そういったことがなければ、家族には、自己破産の影響はありません。
自己破産は、自分や家族の進学、就職、結婚には、一切影響はありません。

ただし、ブラックリストに載っている間は、例えば、子供が奨学金を借りる際に、保証人になることが出来ないので、それには注意が必要です。

(12) 住民票には記載されない

自己破産した事実は、住民票や戸籍には一切記載されません

就業や資格試験の際に、自己破産による資格制限を受けていない者であることを証明するために、本籍地の市区町村が発行する「身分証明書」を提出する場合があり、市区町村役場には、これを発行するための資料となる通称「破産者名簿」があります。

しかし、これは一般の方が閲覧出来るものではありませんから、心配無用です。

また、ここでの証明対象は、あくまで、現時点で自己破産による資格制限を受けているか否かですので、既に免責許可決定が確定して復権している場合には、身分証明書には、自己破産の経験が全くない人と同じ証明事項が載ることになります。

(13) 選挙権は無くならない

自己破産をしても、選挙権は無くなりません。

選挙制度は民主主義国家の大事な仕組みですが、自己破産したことでその権利を失うことはないです。

3.自己破産はまず弁護士に相談を

いかがでしたか。自己破産を行なうことによるデメリットは勿論ありますが、それ以上にメリットも大きいことを理解頂けたかと思います。
自己破産は、返しきれないほどの借金に困っている場合に、とても有効な債務整理方法と言えるでしょう。

自己破産による債務整理を考えている方は、一度弁護士にご相談下さい。

もっとも、債務整理の方法は、自己破産の他にもあります。

置かれている状況によっては、自己破産以外の債務整理方法を利用した方がメリットも大きいかもしれません。例えば、任意整理や個人再生の場合は、所有財産の処分は原則必要ありませんし、手続中の職業・資格制限も一切かかりません。

借金にお悩みの方は、どのような方針が適切であるかも含めて、是非一度、泉総合法律事務所にご相談下さい。

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