債務整理

自己破産をすると今の仕事はどうなるか|解雇?転職?

自己破産は、借金を返しきれないほど抱えてしまった人への救済措置である債務整理の方法の1つです。

自己破産をすると、原則として借金が全てなくなります。
しかし、「自己破産をすると、仕事に影響があるんじゃないか」「自己破産したことが職場にバレないのか」などと疑問を持つ人も多いようです。

実際に、自己破産をすると、ごく一部の職業については制限がかかります。しかし、多くの方にはあまり影響がないといっていいでしょう。

また、制限がかかる場合も、実際に制限がかかるのは、基本的には、破産手続が始まってから終わるまでの期間の話です。「一度自己破産すると、その後一生就けない職業」があるものと勘違いされている方もいるかもしれませんが、それは全くの誤解です。

この記事では、自己破産による仕事への影響を解説していきます。

1.自己破産とは

自己破産とは、債務者が裁判所に申立をして、一部(生活必需品や99万円以下の現金、一定額以下の資産価値しかない財産等)を除いた財産を全て処分・換価し、それを債権者に配当することで、残りの借金を、原則として全て免除して貰う債務整理方法です(公租公課や養育費など、例外的に破産しても支払いが免除されない負債もあります)。

自己破産手続をして借金がなくなることを「免責」といい、それが裁判所に認められることを「免責許可決定」と言います。

自己破産をして、裁判所に免責が許可されると、借金は(上述のような例外を除いて)全てなくなるので、今まで借金返済に追われていた生活から抜け出せます。

しかし、冒頭の通り、自己破産をすると、手続中、一部の仕事においては影響が出る可能性もあります。

2.自己破産による仕事への影響

ここでは、まず「自己破産したら会社にバレるのか」「バレたら解雇されるのか」という点について解説していきます。

(1) 基本的に自己破産は会社にバレない

自己破産したからといって、裁判所から勤めている会社に連絡がいくことはありませんし、わざわざ自分から言う必要もありません。よって、自己破産が会社にバレることは基本的にありません

自己破産をすると「官報」という、行政機関から休日を除いて毎日発行されている新聞に氏名と住所が載ることになりますが、官報を毎日見ている人はほとんどいないので、可能性としてゼロとは言いませんが、まず安心して良いでしょう。

会社で官報をとっている場合でも、破産に関する欄を見る目的で官報を取っているケースは少なく、また、大量に掲載されている債務者の中から個人の名前をピンポイントで見つけることはかなり難しいため、(全くないとは言い切れませんが)官報がきっかけて勤務先(あるいは知人に)破産がバレることはほぼないと考えてよいです。

会社に自己破産がバレるケース

ただし、会社からも借り入れをしている場合には、会社も債権者の一人ですから、自己破産していることはバレてしまいます。

自己破産の場合、特定の債権者だけを外して債務整理をするということは法律上出来ないので、必ず裁判所から会社へ債務者の破産手続開始の連絡が行きます。
どうしても整理する相手を選びたいのであれば、借金を無くすことは出来ませんが、任意整理を選択しなければなりません。

他にも、自己破産においては、「退職金見込額証明書」の裁判所への提出が必要となることもあり、これを会社に発行して貰わなければいけません。これにより、自己破産しようとしているかもしれない、と会社に疑われる可能性があります。

疑われたくない場合、「ローンの見積に必要」「ファイナンシャルプランナーに必要と言われた」などと説明して発行して貰う、ということも可能です。
どうしても会社に証明書の発行を頼めないという場合は、次善の策として、会社の就業規則(退職金規定)とそれに基づく退職金の計算書を裁判所に提出するという方法を検討することになるかと思います。

また、会社に自己破産がバレる別のパターンとしては、自己破産を申し立てる以前から既に債権者による給与の差押手続が行なわれている場合、破産手続が開始した時点で、給与の差押手続の解除(管財事件の場合)あるいは中止(同時廃止の場合)の手続が取られるのですが、この手続との関係で、差押を解除・中止する理由として、自己破産手続を取っている事実が、裁判所から会社に通知されてしまいます。

このことから、特に債権者に勤務先がバレているケースでは、出来る限り早く(給与の差押をされる前に)破産の準備を進めることが重要になります。

このような「会社にバレたくない」という点に関する対策は、弁護士がアドバイスしてくれるでしょう。

(2) 自己破産だけを理由に解雇はされない

自己破産をしたからといって、それだけでは会社は解雇できません。自己破産を理由とする解雇は不当解雇に当たり、無効な解雇だからです(労働契約法16条)。

しかし、法的に解雇が認められないとしても、事実上、会社から解雇を言い渡されてしまうケースはあり得ます。解雇の有効性を裁判で争うコストを考えると泣き寝入りとなってしまう可能性も低くはありません。

会社から解雇されなくても、自己破産したことを知られてしまい会社に居辛くなり、自ら退職してしまうというケースもあるそうです。引き続き働くとしても、昇進や昇給、具体的な仕事の内容などに事実上の影響が出ることも考えられます。

また、自己破産だけを理由に解雇はされませんが、もし会社から多額の借金をしていた場合、会社としては、破産によりそれを全て踏み倒してしまうわけですから、会社の規模、免責される債務の金額、それが会社の財務に与える影響、破産者の職場における地位・職務内容、職場秩序の維持に与える影響などの諸事情によっては、会社に多大な不利益を与えたこと等を理由として解雇が有効とされる可能性がないとは言い切れません。

ちなみに、自己破産後に転職をする事になったとしても、自己破産した事実を知られない限り、転職が不利になることはありません。履歴書等に破産した事実を書く必要もありません。

ただし、銀行などの金融機関では、就職に際して、過去に自己破産の経験があるかどうかの確認を取られることもあるようです。
この場合に破産の事実を隠すことは虚偽申告に当たるので、後に嘘が発覚した場合は解雇の理由となり得るでしょう。

3.自己破産後の資格制限

次に、自己破産をしたことによる職業制限について見ていきましょう。

(1) 一定期間、一部の職業には影響がでる

一部の職業については、法律上、破産手続開始決定から免責許可決定の確定までの間は、その職業に就くことが出来ません。
もっとも、制限される期間は、破産手続中に限ったものであり、具体的には、大体3ヶ月~半年程度です。自己破産をしたからといって、それらの仕事に今後一生就けなくなる訳ではありません。

破産手続によって制限されていた破産者の権利が回復されることを「復権」と呼び、免責許可決定が確定した場合には当然に復権が認められます。復権できれば、職業に関する制限もなくなります。つまり、破産手続開始決定から復権までの期間中だけ何らかの対策を取る必要があります。

なお、免責が不許可になった場合は、破産手続が終了しても、その時点では復権をすることが出来ません(そのため、職業・資格制限も継続になります)。
この場合は、別の当然復権の条件(個人再生で再生計画認可決定が確定する等)を満たすか、負債を清算した上で裁判所へ復権の申立をすることが必要になります。

(2) 制限される職業の代表例

ここでは、制限される一部の職業の代表例を挙げます。
自分の職業が制限されるかどうか、もし不安であれば、弁護士に聞いてみて下さい。

  • 士業:弁護士・司法書士・宅地建物取引主任者・行政書士・弁理士等
  • 公務委員長及び委員:教育委員会委員・公正取引委員会等
  • 役員:商工会議所・信用金庫等(一般企業の役員は除きます)
  • その他一定の職業:生命保険募集人・警備員・旅行業務取扱主任者・貸金業登録者・質屋・風俗業管理者等

大きなイメージで言うと、制限を受ける主な職業は、他人のお金・資産にまつわる職業や、法律関係の職業です。
一定の信頼や財産的基盤が必要とされる職業に関して、自己破産者は制限を設けられます。

逆に、それ以外の職業には制限がかかりません。
一般的なサラリーマンであれば全く問題ないですし、一般の公務員も一切制限を受けません。医師や看護師も同様に制限はありません。

なお、後述のとおり、一般企業の役員については、破産手続開始の時点で、一旦役員を退任しなければなりませんが、その後、株主総会で役員に改めて選任されれば、破産手続中であっても、再び役員に就任することが可能です。

(3) 上記職業の破産手続中の対策

もっとも、3ヶ月~半年の間とはいえ、仕事に就けないと、生活には大きな支障があります。
ここでは、実際に取れる対策を、いくつか見ていきましょう。

①所属する部署を変えてもらう

制限される職業に該当しないような部署にその期間だけ変更してもらえれば、仕事をすることに支障はありません。

②休職・一旦退職の後に再雇用してもらう

部署の変更が不可能である場合、一旦休職するか、退職の後に再雇用してもらうという手段があります。
再雇用までの数ヶ月は、別の何らかの手段で収入を得ることで、生活を繋ぐ必要があります。

③会社役員は再任可

取締役や監査役は、株主総会に選任された上で、会社との間に委任契約を結んで、その職にあたりますが、受任者が自己破産をすると、民法の規定により、この委任契約は当然に終了してしまいます(受任者の破産手続開始が、委任契約の終了事由の1つとして民法に定められているため)。

現行法(会社法)上、自己破産は取締役、監査役の欠格事由ではないのですが、株式会社と役員との関係は、委任に関する規定に従うと定められているので(会社法第330条)、自己破産により、取締役・監査役の地位を一旦失うものと理解出来るでしょう。

ただし、上述のとおり、自己破産は取締役、監査役の欠格事由ではない以上、その後に株主総会で再任されれば、再び同じ役職に就くことが出来ます。

ケースによっては、これらの方法以外の手段を取れる可能性もあります。弁護士に相談してみて下さい。

4.まとめ

自己破産をすると、持ち家や車などの大きな財産を処分しなければいけなかったり、ブラックリストに登録されたりするというデメリットはあります。

しかし、自己破産を理由に会社を解雇されることはありません。また、会社に借金があるとか、給与差押を受けている最中である等といった特段の事情がない限り、職場には破産の事実はまずバレませんので、ご安心下さい。

自己破産などの債務整理を考えている方は、お早めに弁護士にご相談下さい。

勿論、債務整理には、自己破産の他にも方法があります。置かれている状況によっては、別の債務整理方法を利用した方がメリットも大きいかもしれません。
借金にお悩みの方は、是非一度、泉総合法律事務所にご相談下さい。

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