交通事故でむち打ちになった際の治療の注意点|適切な賠償金のために
交通事故による怪我でもっとも多いのが「むち打ち」です。この記事をお読みの方も、交通事故でむち打ちになってしまったという方がほとんどでしょう。
では、むち打ち被害者の方はどのような賠償金を受け取ることができるのでしょうか。また、正当な賠償金獲得のために、治療を受ける際にはどんな点に留意すべきなのでしょうか。
この記事では、むち打ちの適切な賠償金のために、主に治療に関する注意点を解説します。
このコラムの目次
1.むち打ちとは
むち打ちは、外部から首(頸椎)に何らかの衝撃が加わることによって、筋肉や神経がむちのようにしなる結果発症します。正式な傷病名は「頚椎捻挫」といいます。
症状としては、頭痛、めまい、吐き気、不眠、嘔吐などがあります。
交通事故直後は痛みや症状を感じなかった場合でも、事故から数日経ってから痛みが出始めることもあるのが特徴です。
2.むち打ちで請求できる賠償金
交通事故では、交通事故によって生じた損害について加害者(加害者側の保険会社)に賠償を求めることができます。
損害費目の主な内容は以下のとおりです。
もっとも、賠償金の算定方法・基準は、損害費目ごとに異なります。
【加害者に請求できる損害費目】
財産的損害 | 精神的損害 | |
人的損害 | 積極損害:治療費、入院雑費、通院交通費など | 慰謝料 |
---|---|---|
消極損害:休業損害、後遺障害逸失利益など | ||
物的損害 | 積極損害:車両修理費、代車費など | なし
(物損の場合、原則慰謝料は認められません) |
消極損害:休車損害など |
(1) 治療費
治療費には、診察料・検査料・入院料・投薬料などが含まれます。
治療費は、交通事故治療のために必要かつ相当な範囲内における実費(実際にかかった費用)を請求することができます。
完治をした場合は当然ですが、症状固定(*1)となった場合や、保険会社から治療費支払いを打ち切られたりした場合にも、原則として治療費は支払われなくなります。
症状固定とは、これ以上怪我の治療を継続しても、怪我の症状が改善する見込みがなくなった状態のことをいいます。
「怪我の症状が改善する見込みがなくなった状態」か否かは医師が判断しますが、医師の判断に関わらず、相手方の保険会社が治療費支払いを打ち切ることがあります(詳しくは後述)ので、その際は一旦自腹で治療を継続する必要があるでしょう。
(2) 通院交通費
通院のためにかかった交通費について、バスや電車などの公共の交通機関を利用した場合は、それが合理的なルートと認められる場合に実費を請求することができます。
自宅から病院までの交通費だけでなく、勤務先から病院までの交通費なども同様です。
タクシーは、利用せざるを得ない状況と認められる場合に実費を請求することができます。
バスや電車などの公共の交通機関を利用した場合には領収書は湯用ですが、タクシー代の請求には領収書が必要なので、必ず保管しておきましょう。
(3) 休業損害
むち打ちの通院・治療で、これまでと同様の日常生活が送れなくなることも多く、特に仕事を休まなければならないこともあるでしょう。
その結果喪失した利益(損害)のことを、休業損害といいます。つまり仕事を休んでしまい、その分の減収分のことです。
休業損害の算定方法は複数ありますが、自賠責保険の計算基準では、会社員の場合「6,100円(1日)×休業日数」が基本です(なお、2020年3月31日以前の事故は日額5,700円となります)。
収入が多いことの証明があった場合は、1日19,000円を限度とした額を請求することができる可能性もあります。
しかし、これを弁護士に依頼して交渉した場合、計算方法は「1日あたりの基礎収入額(事故前3ヶ月の収入額÷90日)×認定休業日数」とされます。
自賠責の基準よりもかなり高額となる可能性があるのです。
また、主婦などの家事従事者も家事労働に従事できなかった期間を休業損害として請求することも可能です。
(4) 慰謝料
慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償です。
苦痛の程度は人それぞれであり、金銭化することは難しいので、慰謝料の算定には事案ごとに相場・基準が設けられています。
入通院慰謝料
むち打ちなどの怪我により、入院・通院を余儀なくされた苦痛に対する賠償です。
入通院慰謝料は、通院の期間や頻度を参考にして算出されます。
原則として、通院の日数が多かった方が精神的苦痛も大きいと考えられるので、慰謝料金額は上がるでしょう(過剰診療と疑われないよう、注意は必要です)。
後遺障害慰謝料
むち打ちが完治せず、後遺症が残ってしまった場合に発生する可能性がある賠償です。後遺障害慰謝料を受け取るには後遺障害等級認定を受けなければなりません。
また、獲得等級(むち打ちの場合、14級9号、12級13号のいずれかでしょう)によって受け取れる額が異なります。
(5) 後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、後遺障害がなければ将来得られたはずであろう利益のことをいいます。
むち打ちによって労働能力が充分に発揮できず、その分利益(収入)が減少したことを損害とみるわけです。
後遺障害逸失利益を受け取るには、後遺障害慰謝料と同様、後遺障害等級認定を受けなければならず、認定を受けた等級や現在の収入などによって逸失利益額は異なります。
3.むち打ちで適切な賠償金を受け取るための治療ポイント
では、むち打ちによる上記のような賠償金を適正額で受け取るために、気を付けることはあるのでしょうか。
むち打ちの他、交通事故で怪我をした場合は、以下の点に留意しましょう。
(1) 痛くなくても病院へ行き検査を受ける
まずは、交通事故直後に痛みを感じなくても、必ず病院を受診して身体に異常がないかどうか検査を受けましょう。
むち打ちでは、当初は大したことはないと思い病院を受診しなかったものの、後で痛みが出てきて、その時点ではじめて病院を受診するというケースがよくあります。
しかし、仮に交通事故日から初診日の間が空いていると、交通事故と痛み(怪我)との因果関係を疑われてしまい、適切な賠償金を受け取れなくなるおそれがあります。
(2) 通院期間や頻度を守る
病院を受診した後は、医師の指示に従い、定期的に通院することが大切です。
通院頻度は、少なすぎると「重症ではない」「完治している」と思われてしまいますが、多すぎるのも過剰診療と受け取られてしまいよくありません。
いずれにても、通院の要否、期間、頻度を自己判断することだけは避けなければなりませんので、通院する際は、医師に現在の症状をきちんと伝えておくことが大切です。
(3) 整形外科に通う
むち打ちの被害者の中には、仕事などで通院の時間を確保できないことを理由として病院(整形外科)を受診せず、開業時間が長い整骨院での施術のみで済ます方もいらっしゃいます。整骨院の方が効果を感じられるというケースもあるでしょう。
しかし、整骨院での施術は、一般に承認された治療法とはされていません。
また、怪我の証明に必要な診断書は医師のみしか作成できませんが、整骨院には医師がいないため、整骨院では診断書を作成してもらえません(整骨院にいるのは柔道整復師です)。
診断書がないと、結果的に交通事故によるむち打ちの症状はなかったものとして扱われ、施術費、交通費、慰謝料を受け取ることができなくなる可能性があります。
どうしても整骨院に通院したい場合は、医師の判断を仰ぎ、病院と並行しながら利用するようにしましょう。
(4) 保険会社に打ち切りを打診されても通院する
被害者が加害者の任意保険会社による一括対応(*2)に同意している場合は、治療費は保険会社から病院へ直接支払われます。
しかし、一定期間を経過すると、保険会社の担当者から被害者に、「そろそろ症状固定ではないですか?」などといって、治療費支払い打ち切りの打診が入ることがあります。
むち打ちの打診時期は交通事故から1か月~3か月が一般的とされているので、打ち切りの打診もこの間に行われることが多いでしょう。
注意しなければならないのは、あくまで症状固定か否かの判断は医師の専権事項だということです。保険会社の担当者から打診されたからといってそれに従う必要はありません。
保険会社から打ち切り打診の連絡が入ったら、鵜呑みにせず医師の判断を仰ぎましょう。
また、仮に本当に打ち切られてしまった場合でも、医師が引き続き治療が必要と考えているならば、健康保険を使って治療を継続することをお勧めします。
自己負担した分は、必要な治療費であったと認められれば後から追加で請求をすることが可能です。
[参考記事]
保険会社が治療費打ち切りを打診してくる理由と対策
加害者の任意保険会社が、自賠責分(傷害分は120万円まで)と任意保険分の保険金(賠償金)を一括して負担するサービスです。
任意保険会社は、自賠責分を超えた分しか負担しません。したがって、任意保険会社が支払った(負担した)自賠責分については、後日自賠責保険会社に請求して回収します。
4.むち打ち事故を弁護士へ相談するメリット
最後に、むち打ちになってしまった際、弁護士に相談するメリットをご紹介します。
(1) 治療に関するアドバイスをもらえる
弁護士は医師ではありませんが、法律の専門家として、どうすれば適切な賠償金を獲得できるかという観点からアドバイスできます。
つまり、弁護士に相談すれば、どういった治療・検査をどのくらいの期間・頻度で受ければ適切な賠償金を獲得できるのか、具体的なアドバイスを受けることができます。
(2) 打ち切りや示談交渉に対応可能
被害者は、交通事故直後から、保険会社への対応や必要書類の準備などに追われます。「なぜ被害者である私がこんな大変な目に」「もっと治療に専念したいのに」と思われる方も少なくありません。
弁護士に相談すれば、保険会社との煩わしい複雑なやり取りや面倒な必要書類の準備などを一手に任せることができ、安心して日常生活を送ることができます。
また、弁護士であれば先ほどご紹介した保険会社からの打ち切り打診についても適切に対処することができるでしょう。
仮に打ち切りをされてしまっても、その後の対応についてアドバイス可能です。
(3) 慰謝料が上がる可能性
すでに軽く触れましたが、弁護士に依頼した方が賠償金(休業損害や逸失利益)の基準額が高くなる可能性があります。
弁護士に相談すれば、保険会社の裁量ではなく、弁護士(裁判)基準をベースに交渉してくれますから、慰謝料の大幅な増額が見込めます。
また、むち打ちは、客観的な証拠(レントゲンなど)に残りにくいため、後遺障害等級の認定を受けること自体が難しい症状の一つです。
しかし、弁護士に手続きを依頼すれば、等級認定のための必要な書類を収集し、必要事項を記載した上で申請してくれますから、等級認定の獲得に繋がりやすくなります。
[参考記事]
後遺障害認定の申請|任意保険会社と弁護士のどちらに任せる?
5.むち打ちの治療でお困りの方は弁護士へ相談を
むち打ちで適切な賠償金を受け取るためには、病院でどんな検査・治療を受け、どんな証拠(カルテ、MRIなど)を残したか、どの程度通院したかなど、治療中からの対応が極めて重要となってきます。
もっとも、交通事故は人の人生に一度あるかないかの出来事ですから、被害者が迷われる、不安になるということも当然です。
もし交通事故でお困りでしたら、可能な限り早い段階で、交通事故の取り扱いに慣れた弁護士に相談することをお勧めいたします。
無料相談にて弁護士から状況に応じた具体的なアドバイスを受けることができますので、泉総合法律事務所の無料相談をぜひご利用ください。
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